学校法人日本医科大学
日本医科大学 脳神経外科学教室 Nippon Medical School Department of Neurological Surgery
前部長のつぶやき

日本頭蓋底外科学会を開催して

2022年7月7日・8日に第34回日本頭蓋底外科学会を開催させていただきました。現地参加とwebでの同時配信、またオンデマンド配信を含めたHybridで開催させていただき、441名の参加(現地参加263名)を得て、盛況な学会として終了することができました。事務局を務めてくださった村井先生、佐藤先生、相澤さん、様々な企画や学会運営において補助をしてくれた教室員の先生方、運営をしていただいたCONVEXの方々、また多大なご支援をいただいた同門の先生方、大学、同窓会及び製薬・医療機器メーカーの方々に深く感謝申し上げます。 

本学会の開催及び、この学会に私にSKULL BASEの基礎を教授してくれた私の恩師のお一人でもあるLaligam N. Sekhar先生をお招きすることは私の夢の一つでもありました。その夢を叶えることができたことを本当に嬉しく思っています。

頭蓋底外科は脳神経外科手術の中でも、最も複雑で困難な疾患に対応する手術手技・コンセプトでありますが、昨今の簡単で低侵襲な定位放射線治療が普及した状況では、その重要性は少し軽んじられている傾向があるのは事実です。しかし実際には、脳神経外科手術がこの30~40年進歩したのは、頭蓋底外科の展開によるものが大変大きいのです。特にC2-3protionの内頸動脈や椎骨脳底動脈、眼窩周囲、海綿静脈洞、錐体部、斜台部などの疾患に対しては、1980年前には、常識的には手を出せるものではありませんでした。それを今は当たり前に3年目の専攻医でも、内視鏡でいきましょうとか、Anterior petrosalでアプローチとか、言葉にできる時代になっています。私が研修医となった1982年にはYasargil先生のPterional approachが基本であり、後頭蓋のアプローチなど滅多になく、聴神経腫瘍の手術などがあると終わるのは決まって真夜中すぎで、顔面神経が残ることなど滅多にない時代でした。この30~40年の進歩はものすごいものがあるのです。

ぜひその進歩が後退しないこと、次世代につながること、さらに発展することのきっかけにこの学会がなることを祈念しました。

そのためにテーマを「次世代の頭蓋底外科:技と科学」といたしました。

特別な企画をいくつか立てさせていただきました。1)次世代へ継ぐべき頭蓋底外科と教育、 2)微小脳神経外科解剖研究会との合同企画:頭蓋底外科解剖update、3)頭蓋底外科の歴史と展望、4)頭蓋底外科M&M、 5)頭蓋底外科controversy というセッションを設けました。合わせて下記のようなセッション、演題数で、通常3会場で実施する学会ですが、一般演題はWebのみ視聴として4会場で開催させていただきました。

特別企画1では当教室の若手に頭蓋底外科手術をしっかり実施されている10施設を実際に訪問してカンファランスや手術に実際に参加して、各施設の教育体制を見聞し、まとめ、また各施設の施設長にもコメントをいただくという企画を立てました。当院の若手にも非常に刺激にもなったと思いますし、他学の先生たちにも、見学に行くことのメリットを実際に示すことができたと思っております。大学の大先輩で最も私が緊張する佐々木富男先生に座長をしていただいたのですが、後にお褒めの言葉をいただきました。大変嬉しい瞬間でした。

特別企画2は小脳橋角部、鼻腔、海綿静脈洞、そて眼窩という特殊な領域の詳しく、かつわかりやすい内容を講義してもらい期待通りのすばらしい教育内容でした。

さらにメイン企画でもある企画3では、先ほど触れた私の師匠でもあるLaligam N. Sekhar先生にお忙しい合間を縫って、また色々入国に手間のかかる時期に訪日していただき先生が築かれた頭蓋底外科の領域をいかに作っていったかというお話をいただきました。実際にはSekhar先生は最初は血管障害をしたかったが、Pittsburg大学にはその領域の強い先生がいて入り込めなかったので、仕方なく?Skull base疾患を担当することになったこと。当初は治療結果がそれまでの歴史的な結果と比較して良すぎるので、嘘なのではないかという批判を浴び、大学の諮問も受けたこと。しかし正確な記録と実際の患者調査で、正しく報告していることが証明され、疑いも晴れたこと。そして未来への展望などについてもお話してくださった。ふとしたきっかけで専門とした領域でも持ち前の発想力と活力でその道のプロ・先駆者としての地位を確立していること。さらに正確な患者のレコードが重要なことを再認識した講演でした。また日本の頭蓋底の父である河瀬斌先生にもご講演をいただき、日本の頭蓋底外科への貢献について様々な事例をご紹介いただいた。1日目の本学会でのrobotや頭蓋底の科学、疾患の遺伝子異常の講演などもwebで聞いていていただき、その内容も講演に交えていただき、先生の弛まぬ学習姿勢には感銘しました。

そのほか村井先生他が企画し運営してくださったControversyのセクションも非常に盛り上がったとお聞きしています。他の要件でそちらのセッションを聞くことはできなかったのでオンデマンドで再視聴したいと思う。その他のセッションも非常に教育的な内容が多く、充実した学会であったと多くの参加者の皆さんからご好評をいただくことができました。

さらに機器展示会場では、関西医大の天神先生とWet Labo、私が共同開発しているTOM modelの髄膜腫と下垂体腫瘍モデルを用いたHands-onも実施した。Sekhar先生もこのモデルをご覧になり、「これはカダバーじゃないのか?」と驚かれ、ぜひ先生が企画している宇宙での手術室プロジェクトに参加して欲しいというオファーまでいただいた。宇宙では無重力なので、手術で出血すると空中に血液が散らばるので、どう対処すれば良いのかを適切な出血もするモデルで試したいということであった。

時を同じくして、医学書院から「一生使える頭蓋底外科の“知”と“技”」という脳神経外科特集号を発刊しています。今回の学会のエッセンスが詰まっている書籍にもなっていると思います。

さて余談になりますが、今またコロナが第7波として増えてしまっていますが、学会開催時はかなり下火になっており、コロナ対策をとった上での会員懇親会も開催させていただき、リアルに参加者の皆様が談笑(マスクして)できる機会も設けることができた。クラスターの発生も幸いお聞きしていない。数年ぶりのこのような会に皆さんとても嬉しそうでした。

また学会の翌日は、私はSekhar先生を今「13人」で話題の鎌倉にお連れして、散歩を楽しんだ。鶴岡八幡で茅の輪くぐりをしてもらい、八幡神社脇の仏像博物館で運慶一派の素晴らしい国宝仏像など日本の文物・風習にふれていただいた。仏像は、本当に先生に似ている感じ。インド出身の先生ですので、基本宗教にはかなり深い造詣をお持ちで、興味を持って見聞されていたと思う。ただものすごく暑かったのと、鎌倉のタクシー事情を知らず(鎌倉は非常にタクシーが少なく、GOでもSLIDEでも全く捕まリません)、全くタクシーが捕まらず大仏には行けずじまい。。71歳の先生を疲れ果てさせてしまったのにはちょっと反省しています。

学会2日目には一度私も食事をご一緒させていただいたことのある安倍元首相が奈良で銃撃されるというショッキングな事件があり大変な日程でしたが、無事にSekhar先生も帰国され日本をEnjoyしたとおしゃってくださっている。

繰り返しになりますが、教室員やご協力、ご参加いただいた皆さんのおかげで、夢であった学会開催、Sekhar先生の招待ができ、本当に感謝しております。

まだまだ暑い日々が続きます。皆様体調に注意し、また夏休みを取られる先生もいらっしゃると思います。私は宣言はしておりませんが、根っからの「イクボス」だと思っていますので、よく学びよく遊んでください。

集合写真

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