学校法人日本医科大学
日本医科大学 脳神経外科学教室 Nippon Medical School Department of Neurological Surgery
前部長のつぶやき

窓について

窓について考えてみる。

なぜかと言うと先日脳ドック学会の帰り足を伸ばした安来にある足立美術館の窓を通してみる切り取られた庭の景色が素晴らしかったからと、アムステルダムでちょっとよったカフェ(オランダではカフェではビールが中心)で窓から見える景色がなんとも良い感じだったからである。

足立美術館は山陰に行ったことのある人であれば一度は聞いたことがあると思うが、足立全康さんが土地売買であげた収益(新大阪近辺らしい)で一代で作った庭園と横山大観の絵を中心とした日本画の美術館である。横山大観などの日本画も素晴らしいのではあるが、今回は前回あまり注目しなかった庭を中心に見て回った。庭は借景となる背後の山まで購入していると言うから大変なものである。建物の周囲につくられた様々な庭はそれ自体素晴らしいのだが、もっと素晴らしいと思ったのは途中にある窓から見える切り取った絵のような庭の構図である。

一方アムステルダムのとあるカフェでは窓にガラス絵が組み込まれていた。ヨーロッパではStained Glassも素晴らしいが、古い窓からガラス絵を通してアムステルダムの石造りの街が見えるとなんとも言えない雰囲気を出す。そこで飲むビールがまた美味しかった。

オランダでは素敵が絵画がたくさんある。絵はご存知のように画家が見えている光景から自分の考える範囲を切り取ってみせるものである。その配置や背景の微妙さが絵の良し悪しを決めるとも言える。フェルメールの絵などは、後世に空を書き込まれて、光の方向が違うことになってしまった絵などもあり(しっかり剥がして修正したそうです)、画家の想いが構図に深く組み込まれているのがわかる。レンブラントの絵には暗闇と明るい光のコントラストが素晴らしいものが数多くある。必要以上に暗いところが多いと思われる絵もあるが、暗いところに潜む男性が描かれていたり、また周囲の暗さが明るい部分をより際立たせる。

現代人で窓といえば、スマホやデジカメで撮る写真の構図であろう。これは絵とは違って極めて簡便に試してみることができるわけであるが、見えているものの切り取り方で写真もかなり意味が異なってくる。今はとても画質が良くなったので、ざっくりと広くとって後で拡大してそこだけを切り出すこともできるようになったが、実際には光の加減や焦点と背景のぼかしの加減からいうと、最初から自分の思うところを切り取って撮るのが最良だろうと思う。その辺りはかなりのセンスが必要となると思うが、それぞれ日頃写真を撮り時に気をつけていることと思う。今は観光名所や何かエベントがあると、誰もがスマホを掲げている場面が非常に多い。多分皆さんカタログにあるのと全く同じ写真を撮りたくて撮っているのだと思うのですが、どうして絵葉書やカタログと重複した写真が必要なのでしょうか?自分なりの見方で、違った視点の写真の方が良いと思うのです。この後に触れる、研究とかものの見方と同じと思うのです。

そのような窓?の美術の派生したものとしても日本では色々なものがある。盆栽は小さな世界に植物の生命力と周辺の風景を凝縮させた、日本の文化であるし、多分お弁当も窓と同じようなセンスで、限られたお弁当箱の世界にどのような情景を作れるかということになる。ANAだったかの機内誌におべんとうの時間というコラムがあるのを知っていると思うが、弁当写真家さんが様々なお弁当を紹介してくれる。その中にも色々なストーリーが詰め込まれている。そうなるとボックスフラワーとか、キルトとかもそのスペースをどう生かすか?ということになる。

ちょっと切り取るのと詰め込むのが逆になってきたので、話を戻す。

「窓」 英語でいうとWindowであるが、WindowsというPCプラットフォームは世界中の誰もがお世話になっている。なぜWindowsという名前にしたのでしょう?様々な仕事(それこそ写真の切り出しも含めて)をある一定の画面領域でさせることを可能にしたからであろうか?今の人たちは見たこともないと思うが、昔のPCは一画面、一仕事しかできなかった。要は全画面が一つの作業画面で、それ以外の仕事をすることができなかった。黒い画面にコマンドを打ち込むと計算とか記述とか、何か仕事ができるという具合であった。Windowsがでてきて、PCの画面に幾つもの仕事(作業)の窓ができるわけである。

よく若い人に(自分のことは棚に上げて)「視野を広く持とう」と言うのが口癖になっています。

これは先ほどの写真の例ように広く見て撮っておけば漏れが無いという意味ではありません。広く撮っていると、実際には注意力が足りず、その中で起こっていることには無頓着ということにもなる。広く風景や目の前のものを見ながら、その中で何が面白いことなのか、どう切り取れば、より面白く見れる・考えられるのか?それと同様に、いろいろな日常のこと、臨床のこと、研究のことをしている中で、全体を見回しながらも、どこに注意を向けて、どう切り出して、集中して行くか、そんな上手い窓の切り取り方を学んでほしいと思う。ユニークな研究は皆とおなじ視点で行っても何も新しいことは生まれません。ぜひ独自のユニークな視点の作り方を学んで欲しいと思います。当然、それは狭い範囲ばかりに注目しているとできないことで、常日頃から色々なことに興味を持って、色々な人と話をして知見を深めているのが大事なのだと思います。

足立美術館とアムステルダムの窓に感動して、こんなことを考えていました。

以下足立美術館の窓とアムステルダムの窓など

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