学校法人日本医科大学
日本医科大学 脳神経外科学教室 Nippon Medical School Department of Neurological Surgery
前部長のつぶやき

図書館の本とpdf(2017年10月)

森田明夫

皆さんはどのように論文を集めているだろうか?

多分殆どの人がpdfをオンラインで集めて情報を収集するという手法をとっていると思う。それに卓越すれば非常に多くのことが簡単にできるし、Endonoteなどで索引をつければ非常に簡便な自分用のそれこそ“Library”を作ることができる。確かに場所も取らず簡便である。またそれを元に最近は非常に多くのsystemic review論文を目にする。やや日本はその時流に遅れていて、日本人の優れたsystemic reviewというのに(私の狭量な脳神経外科領域に限った論文のレビュー)では出会ったことがない。pdf集積やオンラインでの便利な情報集積に卓越したのであれば、ぜひチャレンジして欲しい領域である。

最近はNeurologica Medico Chirurugicaなども含め紙での出版の費用を削減するために雑誌そのものがオンライン化され、紙媒体の雑誌を見ることもできなくなっているものも増えてきた。皆さんは自分が論文を書いて、その感動をいつ感じるだろうか?論文がアクセプトされた時?ガリproofを受け取った時?最終版のpdfを受け取った時? 私は紙媒体の別冊を受け取った時であり、掲載雑誌を受け取った時である。多分そう感じている人も多いのではないかと信じている。私はこれまで掲載することのできた主だった論文の掲載雑誌そのものをとっておくことにしている。そうすると後で振り返ると、その時に同時に掲載されていた論文も見ることができ、科学の変化がよくわかる。また紙に印刷されたインクの匂いなどに、本当の雑誌に載ったんだという気持ちになる。

昔は教室や部屋にJ NeurosurgeryやNeurosurgeryの雑誌を年ごとにまとめた本(今も途中まではあるが)が置いてあることも多かった。JNSなど10年間の索引などが発刊されると、将来このような索引に幾つ自分の名前が掲載されるだろうと夢を持ったこともある。

また図書館の本は格別である。こちらはインクくささというよりは本の持つ独特の匂い?(実際はなんの匂いかよくわからない。糊の匂いなのか、虫食った神の匂いなのか、まさかカビなど)があり、それを開いて論文を探す努力、時間がとても愛おしい。今は時間の都合もあって、殆ど図書館に行って論文を検索することはなくなった。今から20年以上前の話だが、私がワシントンのSekhar先生のもとでフェローをしていた時に、頭蓋底手術の歴史について調べるように課題をもらった。その時に本当に古い論文を漁るために必要だったのが、米国国立図書館である。Meckel氏のMeckel腔のオリジナルの記載などを当たった。これは16世紀のフランス語の原本なのであるが、それ手元に出してくれて、それを白い手袋をしてページを括った。コピーもしてくれる。その時の匂いたるや400−500年の歴史がふわっと空気中に浮かんでくるような感動を覚えたのを記憶している。残念ながら、自分には執念が足りず、その経験から得られた知識を論文化するということをしなかった。つくづく「怠け者」と罵りたい。

また図書館で論文を渉猟するともう一つ良い(?)ことがある。それは目的とする論文だけではなく、同じまとめられた論文冊子の中の他の興味をひく論文をいくつも目にすることである。その当時の科学やいろいろ疾患の病態解析や治療の成り立ちを理解できることである。現在の目的とするpdfしか出てこない世の中では、それはあり得ず、前後にどんな論文が掲載されているかを知るよしもない。すなわち論文検索が非常に「目的化」なされおり、「単純な作業」となっている。論文渉猟による知識の多様化には繋がらないのである。

印刷された論文をコピーするのは、本当にかさばるし、いつかは捨ててしまわなければスペースが持たない。私の部屋をいっぱいにしているキャビネットの中は殆どがそのようなものが詰まっている。一つのコピーを手にすると、それを手でコピーした時の記憶がよみがえってきて、周囲にどんな論文があったかも思い出されてくる。
自分の興味範囲の広さはそんなところから来るのかなとも思う。

皆さん。オンラインでの論文検索 pdfの整理方法、さらにsystemic reviewの実施方法の獲得は極めて、他の施設・国に太刀打ちするために重要です。そのような便利は手段を使わない手はありません。徹底したexpertになってください。
ただ一方で時間に余裕のあるときは、図書館に行って、実際の本に触って、紙の媒体、匂いにふれ、その時期にどのような論文が他に出ているのかを見て、筆者の想い、伝えたいこと、またその時代の人たちの知識の今との違いを実感して欲しいのです。

「月に一度は図書館へ!」

Mayo ClinicのPlummer Buildingとエレベーターの飾り:
この10-12Fが図書館になっていて古い本から最新の雑誌まで置いてあります。Medical artistの部門、本屋もあり色々な本を購入しました。

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