2017. 05. 01
第30回老年脳神経外科学会を主催して
先日第30回日本老年脳神経外科学会を学士会館で開催させていただきました。事務局を務めていただいた森本医局長、相澤秘書様、また当日、それ以前もご協力、ご支援いただいた教室の先生方、発表いただいた先生方、大変ありがとうございました。おかげさまで1日のみで200名弱の参加でしたが、無事学会を終了することができました。
高齢者の定義が色々変化あるようですが(最近老年医学会から65歳ではなく75歳以上を高齢者と呼ぶように推奨された)、基本的に現在の脳神経外科の入院対象の50%以上は高齢者です。皆さんご存知のように、高齢者の手術適応はより慎重に、また術前、術後管理は様々な特殊な配慮を要します。本学会はそのようなことをDiscussし情報を共有するために作られた学会です。今回は特に本領域でのガイドラインの構築を目指してエビデンスを掘り起こしてもらい、様々な疾患に於いて高齢の定義をどうするか?どのような術前の因子が治療の予後に強く関与するかを明らかにすべく検討してもらいました。
本会議でわかったのは、
①脳血管障害の脳を露出するような手術では年齢は75-80歳を境として予後が代わりうる。また様々な提唱されているFrail indexやComorbidity indexに留意すれば合併症はおさ得られる可能性があること。
②脳を露出しないようなCEAのような手技は高齢者でも予後はあまり変わらない。
③血管内治療も同様だが、血管の蛇行の強い例では要注意
④パーキンソン病、てんかんなどの機能外科手術はあまり年齢の影響は受けない
⑤脊椎の手術は高齢者の予後は悪く、特に悪化例では回復は乏しいこと。治療を決断するタイミングが重要なこと。
などです。
ただしっかりとしたエビデンスとして確立されているものは比較的少なく、重要なテーマとして今後、臨床研究で明らかとしていかねばならないこともはっきりしました。
特に私が専門とする脳血管障害の領域では、本学会を中心に今後全国共通で用いるCV Frail indexを構築するように進めてゆきたいと思います。
教室の亦野先生を中心に未破裂脳動脈瘤の治療のOutcome研究(MUCE-P)を開始する予定ですので、ぜひご協力ください。
その他のテーマとしては認知症の診断、治療に関しては今後脳神経外科医の関与が日本脳神経外科認知症学会も設立され重要さを増していくのは明らかです。
ただ基本的には、脳神経外科医の認知症医療の中での役割は
①スクリーニングによって手術により改善しうる認知症を見つけ出す
②認知症外来をするにしても、基本的には最終診断は専門に任せる
③特に運転可否の判断は刑事追訴はないが、何か問題が起きた場合、民事では訴訟を受ける可能性はあるので慎重な対応が重要であること。
④基本的認知症のパターン、screening法を心得ておくと良い。
ではないかと思いました。
また高齢者治療の一手段として漢方薬の役割は重要です。そのため私も少し関与している脳神経外科漢方医学会との合同教育シンポジウムも行いました。皆さん五苓散を硬膜下血腫の再発予防に用いていると思われますが、その他重要な薬剤として、抑肝散、柴苓湯、六君子湯、大建中湯、十全大補湯などの使い方は覚えておいた方が良いかもしれません。
①基本的にはよく歩くこと 1m/sec以上の速さで歩けること
②定期的運動すること
③握力はしっかりしていること
④精神的活動を活発にすること
⑤家族や友人、知人との人的交流を保つこと
などが高齢者としての医療Outcome向上には重要なようです。
東大老年病科秋下教授の特別講演では、家族がいないで一人で食事する人よりも家族がいても一人で食べる人の方が死亡率は高いということを話されていました。脳神経外科医や医師はなかなか家族との時間取れにくいかもしれませんが、ぜひ大切にしましょう。
会の前日にはアラスカ写真家の松本紀生さんにPhoto live showをしてもらいました。私がラジオで話しを聞いてぜひ聞いて、見て見たいとい独断と偏見で選んだ企画で、1時間ということでちょっと長いことを心配したのですが、私はとても新鮮で楽しい企画でした。とてもユニークな企画で皆さんとてもenjoyされたようでした。精神の活性化に寄与できたかと思います。ちなみに費用は破格に低額でした。無駄遣いはしておりません。自分も周りの人も楽しめ、ためになり、かつ低予算であることがとても重要に思います。
http://www.matsumotonorio.com/
この次は2年後(2019年1月)にCI学会を国技館近くで開催予定となっております。学会の内容などまだ全く未定です。ぜひ皆様のお知恵、お力をお貸しください。