学校法人日本医科大学
日本医科大学 脳神経外科学教室 Nippon Medical School Department of Neurological Surgery
前部長のつぶやき

Yasargil先生の講演

先日第30回トルコ脳神経外科学会に日本脳神経外科学会 嘉山理事長の名代として出席してきました。

プログラムも当日まで公表されず、ホームページではずっと(今も)Under constructionでした。そのような具合で、あまり内容には期待せずに、テロにあわないことだけを祈って出張してきました。

ところが、

トルコ脳神経外科は現在学会員が約1700名、学会は5日間で、まず最初の2日間は基礎的Education Programになっています。脳神経外科にかかわる基礎的教育セッション(解剖や、生理、病態などです)、同時に脳神経外科看護の学会も開催されますので、なんか華やかでもあります。(ちなみにトルコ人はエキゾチックで女性はかなり美人さんが多いです)

同時に米国、ドイツ、イラン、イタリア、日本(私のみ)の脳外科医が招待されており、それぞれ特色ある講演をします。特にVolker Seifert先生(ドイツ脳外科の会長)のRVP(心室をペーシングして血圧をある一定時間下げる方法、アデノシンのように完全に止めるのではなく)で動脈瘤をクリッピングするとか、Stump先生の5ALAの意義の講演は聞き応えがありました。

学会の内容はかなり先端をいっており、クリッピングや血管内もかなり進歩しており、かなり欧米で第一線をしていたひとが中心になっています。主なゲストの発表の合間の一般セッションは、10名位の比較的若手の講演があるのですが、参会者・聴衆が採点することになっており、優秀な演題は表彰されます。後で宴会の際に伺ったのですが、「レベルが高いですね。」と言ったら、これは総会でお祭りみたいなもので、各Specialtyの分科会では「ばしばし」もっと激しい議論があるんだと言っていました。なにか本当の議論の少なくなった日本の学会の状況が少し恥ずかしくなりました。

さて、中でも圧巻がYasargil先生の講演でした。Yasargil先生は現在齢90歳(Born on July 6, 1925)とのことです。SwissのZurichでKrayenbuhl先生の後を継ぎ、菊池先生や江口先生、米川先生らを教育されたことは有名です。その後、米国でAl-Mefty先生やAli Krisht先生とともにArkansasにいらしたところまでは把握していました。現在Ugo Ture先生のもとイスタンブールに在住とのことでした。御講演はトルコの若手脳神経外科のためのもので、トルコ語でした。やや不十分な英語の同通がありましたので、それで内容を一部(ですが)理解しました。

まず①の様な絵が1枚目のスライドでした(図①)。いわゆる抽象画でかなり高額のものと思います。先生は絵や美術品が好きですが、時に古典—ルネサンス、印象派などの有名な作家の絵画を勧められるそうです。(レンブラントとか、コローとか、ゴーギャンとかでしょう)でも「自分はあまりそういう2次元、3次元にとらわれた絵はそれほど好きではなくて、2次元に3次元を飛び越えた4次元それ以上の新しい発想を感じさせる絵がすきなのだ。。五感をピリピリと刺激してくれるような絵が好きなのだ。」とおしゃっておりました。次はKrayenbuhl先生の写真を出して、彼の人物評をしばらく述べる。「彼は、私が色々なところに手術を見学に行きたいというと、喜んで行かせてくれた。その頃の他のヨーロッパの教授は自分の流派以外のものを見たいというのは許さず、閉鎖的だった。師匠はとてもHumble(謙虚)で、かつDignity(威厳)を持ち合わせていた。脳神経外科医は政治的ではなくいつもHumbleでなければならない。」と。次に彼の部屋にあった馬のようなものに乗った人の像を示す(図②)。「私はこれが好きだったんだ。欲しかったんだけど、あの頃は買えなかった。これは交感神経(緊張)と副交感神経(安堵)を秘め、その中にEGOを示しているんだ。」と。ちょっとよくわからなかったですが、そのようなことをおしゃっておりました。

その後は彼の経験した症例を頭蓋咽頭腫、髄膜腫、聴神経腫瘍、血管芽腫、AVMとか、Yasargil先生の教科書にある種類の病態を1~2例ずつ、その患者のエピソード、手術のときの感覚、今そこでしているような表現で、そしてその緊張が伝わるような表現で、示してくれました。その後の患者さんの人生も語ってくれました。それぞれの疾患を数100例ずつ手術しているのですが、数の理論だけではなく、個々の患者、一例一例の歴史を語るのです。各論と一般論を併せて話されるのです。一例だけ写真でお見せします(図③)。患者さんはほぼ視力を失っています。この巨大な髄膜腫をどのこの医師もBiopsyして放射線と言ったそうです。あり得ないだろう!!取るんだ。取り方は、「よーーく術前の画像をみて、いくつのボールのような腫瘍があるか数えて考えておく、そして一つ一つのゴルフボールのようなかたまりを取り除いて行くんだ、、そうすると残さず、神経も守れるんだ」といっておられました。術後写真もみせられ、元気に目も見えて幸せに暮らしている。とのこと。絶対にガンマなんか駄目だ。少し私に、年齢などの余裕があれば、「再手術、ガンマ後の手術の本」をシリーズにもう1冊追加したいところだ!とおしゃっておりました。

最後に若者が何を習わなければならないかということを強調しました。

以下のような9項目を「それぞれLaboratoryで各項目3ヶ月ずつ、午前中は座学、午後はカダバーと動物と、そして手術で実習するんだ。Dissectionと縫合方法を、骨や皮膚、筋肉、神経、動脈、静脈、硬膜など、白質やfiber、脳室などについて学ぶんだ!27ヶ月(2年半)で立派な脳神経外科医ができる。」私が若ければこんな教育システムを作るんだが、、、とおしゃっておりました。なかなかそういった長期Bootcampのようなものはできませんが、ぜひ皆さんもこのような項目に留意しつつ修練を積んでください。

ちなみにその後ちょっとの間お話する機会があり、私の“動脈瘤の話と将来のために血管内治療の進歩とバイパス術と頭蓋底手術技術の維持は重要だ”という話を聞かれておられ、「だれが最初にパイパスしたか知っているか?」と問われました。「Moyamoyaのバイパスは最初はKrayenbuhl先生がしたんだぞ」とのことでした。

日本にきて御講演をお願いできないかとお頼みしたのですが、目から光がはいると視床下部からカテコラミンがでて目が覚めるんだ。だからどうもこの年になると時差が応えるんだ。。とのことでした。佐野圭司先生のレクチャーにとお願いしたら、考えてみるとのことでした。もしかすると皆さんも今一度先生のご講演をお聞きできるチャンスがあるかもしれません。90歳を超えても、患者のことを想い、若い医師の教育を思う姿。感動いたしました。

(講演の内容は通訳越しですので、一部理解不足のところがあります。間違いもあるかもしれませんがご容赦ください。)

Yasargil先生提案の脳神経外科育成laboratoryトレーニング項目(各3ヶ月)

  1. Skin, Muscle, Vasculature, Nerves
  2. Cranio-Spinal bones, High-speed drilling
  3. Cranio-spinal meninges: Dissection-SuturingCisternal compartments
  4. Dura-Arachnoidea-Pia
  5. Cranio-spinal Vasculature Dissection-Suturing
  6. Arteries-Veins-Venous Sinuses
  7. CNS Parenchyme: DissectionWhite Matter-Fiber System
  8. Nuclei and their connections
  9. Gyri-Sulci,Cortices
  10. Ventricular System
  11. Cranial, Spinal and Peripheral Nerves: Dissection-Suturing
  12. Adaptation to the segmental and compartmental concept
  13. Cranio-spinal Surgical Approaches

図①

図②

図③

Yasargil先生と

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