2015. 11. 01
第74回日本脳神経外科学会総会 羽生名人の講演から
羽生善治名人による「決断力を磨く」講演
森田明夫
先日の第74回日本脳神経外科学会総会は様々なアイデアが満載されていた近年まれにみる素晴らしい学会でした。その中でも珠玉の講演が羽生名人の講演でした。聞けなかった先生もいると思うし、自分でもその内容を記録に残したいので、ここにまとめます。不正確な部分もありますし、私なりの理解でデフォルメしているところもありますのでご容赦ください。
その講演はとつとつという印象で始まった.決して華々しくなく、決して軽々しく無い形で。
1. 「読み」について
「よく何手さきまで読むのですか?」 ときかれます。なかなか難しい質問です。
将棋は
- 直感
- 読み
- 大局感(対局)
ですすめます。それをいろいろな形で繰り返しながら経験をもってスムーズに相互・交互・順番に用いるようにしているのです。
(手術と同じですね。)
ときどき「長考」というものに入ることがあります。これは自分の場合、あまり役にたたないことが多く、たとえ第3のアイデアがでてきたとしてもあまりよいアイデアではないことが多いです。「長考に好手なし。」なのです。
相手の長考のときは、最初は対局のことを考えていますが、残りは全く別のことを考えています。夕飯なにたべようかとか。。
2. 運、つき、バイオリズム
「運」とか「つき」とか「バイオリズム」のことを聞かれることもあります。
でもあまりに気にしすぎるのがよくないと思います。どういう場面でも最善を尽くすということが大切なのだと思います。
不調・不調といっていても、それが3年続けば 「実力」なのです。(確かに)
といっても不調のこともあるので、不調を改善するためには、今していることは続けなければならないことなので、していることを変えるよりは、気分を変えることです。(よく手術でもあてはまりますね)例えば音楽を変えるとか、息の仕方をかえるとか、思っていることをかえるとかです。
3. モチベーションと緊張感
モチベーションを高めるにはどうしたらよいですか?というのもよくきかれます。
単純ではないですが、Relaxして、楽しく努力すること ができる環境をつくることだと思います。
Relaxばかりしても駄目で、緊張も重要で、適切な緊張は力となります。達成まで後少しだ という緊張感がよい力となります。
一方で過度の緊張は力をそぎます。これはよく身がこわばるような感じ をいうのだと思います。身が引き締まる思いというのは、過度とよい緊張の中間くらいかと思います。
4.Dataと記憶
今回寶金先生がDataのことを学会のテーマにしています。
私が考えるDataとは、それを分析することで簡便なツールとなることだと思います。ただ私は簡便につけた知識や技術はあまり身に付かないとも思っています。パソコン上でわかったように思っても、メモや実物をさわったり、実際に書いてみて覚えたほうが身に付くのと同じです。五感をつかって感じることが重要なのだと思うのです。(手術の絵も同じですよ!)
記憶について。よく私はこの対局は覚えているか?ときかれるのですが、いつどこでとは覚えていないのですが、その流れは間違いなく言えます.でも幼稚園児の対局は覚えていられません。
記憶は必然的にされている流れにのっているものは簡単ですが、カオス(幼稚園児の将棋)は困難なのです。理解できるプロセスを覚えていればひとつひとつの場面は覚えていなくても流れを覚えていられるからです。(手術や医療でもおなじですね。絶対必要な流れを覚えておくことですね。小手先の技術や薬品名よりも)
インターネットの役割は最近の教育ではおおきいです。
今やったことが瞬時に地域性を超えて伝えられる。これまでの地域差を減らしていると思います。
さて記憶力と分析力が大事なことは当たり前ですが、実はこれと対極にあるのがいかに創造的になるかということだと思うのです。
余り多くのことを知ると常識や先入観がさきばしり、新しい創造がしにくくなる可能性もあります。
ほんとうはこれを上手く組みあわせて今まであったものと、今までなかったものを上手く組み合わせてゆくとよいと思います。
5.ミスについて
さてミスについてです。
ミスの無い年はありません。またミスのなかには自分の気づいていないミスというのもあるかもしれません。たとえば私が高校のころにした対局など、今考えればミスだらけでもそのときは気づいていません。(たしかに手術や医療でもそうですね。結果オーライですませていることも多いと思います)
ミスしたときに重要なのが、それ以上のミスを積み重ねないということです。
ミスをすると気が動転し、反省と後悔が心を支配します。
ミスをすると場はさらに複雑となっていますから、そのときの状況を冷静に判断しないと、さらにミスを積み重ね易い環境でもあるのです。
ミスを重ねないためには、ひと呼吸する。周りの景色をみる。1〜3分 一服して気分を変える。
反省をすぐにしない。後でする。反省しだすと後悔し、さらに深みにはまる。
ミスの後の状態から、今初めてこの状態から何かをするならどうするか?を意識的に考える。初めて見た視点を大事に流れの構想を守ってすすめてゆく(ここメモ読めません.すみません)のが大事です。
(とても身にしみます)
6. Big data(エビデンスやマニュアル)の活用
さてビッグデータを分析や判断、決定に用いるということがどの世界でもおこなわれています。以前マネーゲームという映画で、弱小球団が数字に強い野球を知らない人をマネージャーに雇ったら、あまり華々しくない必要なさそうな人をスカウトしてくる。でもそれでいつも地区の決勝に残れるようになった。という映画がありました。最後はその人はYankeesに引っ張られたという話だったお思います。コンビニでは売れるものだけを効率的に配置する無駄の無い商売をして、スーパーの売り上げを追い越しています。
私は時々調子の悪いときはそういったデータ将棋をつかいたくなります。でも調子が普通ならこれまでに話した自分の経験と発想をつかって将棋をしたいとおもっています。
(平均値を上げるには役立つものということだと思います。でもトップまではいけない可能性が高い)
後記:
かなりデフォルメしていますが、以上のような内容であったと記憶(メモ)しています。総会では札幌のよい空気をすっていらした先生も多いと思います。そのような気分転換もだいじです。但しすくなくとも学会では何か1つは学ぶようにしましょう。今後の学会出張後には何を学んだかをまとめて話をしていただこうと思います。そのためにしっかりとした知識として固めるように。五感を大切に.