2018. 12. 01
インフォームド・コンセントについて
インフォームド・コンセント
森田明夫
先日とある雑誌からの依頼でインフォームドコンセントについて章を書く機会があった。その際に色々学ぶことを思うことがあったのでお話ししたい。
まずインフォームドコンセントという言葉であるが、Wikipediaにもあるようにその歴史は浅く日本では1990年に日本医師会の部会で「説明と同意」と翻訳され、医療法に「説明と同意」の義務が記載されるようになったのは1997年とのことである。
実際には、十分な医行為や治験(研究)に対して説明の上で、理解をし、患者の自由意志によって同意をすることがインフォームドコンセントであり。主語は患者である。医療側はインフォームドコンセントを受ける(もらう)側ということはほとんど誤解され、一部の医師には治療を納得させることだろうと思っている者もいる可能性が高い。「主体は患者」が極めて重要なkey wordであり、特に理解をすることと、自由な意思で決定してもらわないといけないことが極めて重要な要件である。
もともと医行為の医師法での解釈は、「当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、または危害を及ぼすおそれのある行為」とされている。すなわちもはや医行為は慈善行為などではなく、患者と契約を結んだ上で進めないといけない危険な作業と認識されている。
したがって説明内容には以下のようなことが入っていることが必須とされている。(過去の裁判の判例から)
- 病名及び現症状とその原因
- この治療行為を採用する理由(有効性と合理的根拠)
- 治療行為の内容
- 治療行為の危険性。合併症の頻度
- 治療行為を行った場合の症状の改善の見込み
- 治療行為をしない場合の予後
- 他に取り得る治療方法の有無
- セカンドオピニオンを受ける可能性
小松秀樹氏の様に医療の不確実性を前提として含めるベきという意見もある。
一方で患者・被験者側も納得するまで質問し、説明を求めなければならない。
十分な理解を得て、判断する時間を持つためには、本来であればICはもし予定手術であれば、十分な日程的余裕を持ってあらかじめ定められた日時に、わかりやすい絵やシェーマを用いた説明を加えてもらわないといけない。現在のように入院当日や翌日が手術という場合、決して入院後に説明するということは勧められない。一方でICでは複数で患者さん家族と会うということも重要視され、また特に患者や家族の理解を深めるにはより患者に近い看護師などが同席して、患者の理解を深める手助けをするということも推奨されている。
現在の医療システムではなかなかこのような体制を構築することは困難で、かくいう自分も手術の2日前くらいに説明を若手医師と(時に看護師も入ってもらう)行なっているのが実情である。本音と建て前がどうにもしっくりこない状況だる。
今後可能であれば、外来での複数同席によるICの説明実施体制を検討したいと思う。
さてよく脳神経外科で遭遇する、1)緊急対応時、2)認知症、3)未成年の治療のICはどう得るべきなのだろう。
1)については患者が意識不明かその他の理由で意思を表明できない場合に、法律上の権限を有する代理人がおらず、患者本人に対する医的侵襲が緊急に必要とされる場合は、患者本人の事前の確固たる意思表示あるいは信念に基づいて、その状況における医的侵襲に対し同意を拒絶することが明白かつ疑いのない場合を除いて、患者本人の同意があるものと推定される。とされている。後述するリスボン宣言にも記載がある。
2)の場合、軽度認知症程度で自分で意思を表現できる場合は、患者に決定してもらうことが大前提である。判断不可能の場合、医療費の補助やその後の介護など色々な立場があり、特に状況が重篤な場合、代行決定をどの様な手順で行うかについてはいまだに非常に議論の多いところなのである。(公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートの提言)
3)もかなり難しい判断をしなければいけない場合もある。実は医療における未成年者とは、通常観念では15歳未満(中学生以下)を指すらしい。欧米ではそれが当たり前であり、15歳以上のものは自分の命に関する判断ができると考えられている。特に話題としてあげられるのはエホバの証人を両親にもつ子息である。大出血をして生命を救うために医学的に輸血が必要であれば、どうすれば良いであろうか?難しい判断となる。基本的には15歳以上であれば本人の意思にしたがって医療をすることが正しいとされる。
さてインフォームドコンセントの根底となっているのは世界医学会が1980年に制定したリスボン宣言であり、そのICに関する記載は下記のようにある。
2.選択の自由の権利
- 患者は、民間、公的部門を問わず、担当の医師、病院、あるいは保健サービス機関を自由に選択し、また変更する権利を有する。
b. 患者はいかなる治療段階においても、他の医師の意見を求める権利を有する。
3.自己決定の権利
a.患者は、自分自身に関わる自由な決定を行うための自己決定の権利を有する。医師は、患者に対してその決定のもたらす結果を知らせるものとする。
b.精神的に判断能力のある成人患者は、いかなる診断上の手続きないし治療に対しても、同意を与えるかまたは差し控える権利を有する。患者は自分自身の決定を行ううえで必要とされる情報を得る権利を有する。患者は、検査ないし治療の目的、その結果が意味すること、そして同意を差し控えることの意味について明確に理解するべきである。
c.患者は医学研究あるいは医学教育に参加することを拒絶する権利を有する。
4. 意識のない患者
a.患者が意識不明かその他の理由で意思を表明できない場合は、法律上の権限を有する代理人から、可能な限りインフォームド・コンセントを得なければならない。
b.法律上の権限を有する代理人がおらず、患者に対する医学的侵襲が緊急に必要とされる場合は、患者の同意があるものと推定する。ただし、その患者の事前の確固たる意思表示あるいは信念に基づいて、その状況における医学的侵襲に対し同意を拒絶することが明白かつ疑いのない場合を除く。
c.しかしながら、医師は自殺企図により意識を失っている患者の生命を救うよう常に努力すべきである。
実際には、日本では医療に関する法定代理人の制度はまだなく、意識がない場合には、意思決定の代行(代諾)は近親者・家族・3年以上一緒に暮らす同居者が決めることになる。これが複数いる際には実際には誰が決めるのか揉めることもあるわけでが、その様な場合には、家庭裁判所で判断してもらうことも可能とされている。一般には患者の意思に近い決定をするだろう者に決定されることが多く、配偶者(3年以上の同居人)、両親、兄弟の順が多いという。
ちなみその他のリスボン宣言の内容は
- 良質の医療を受ける権利
- 選択の自由の権利
- 自己決定の権利
- 意識のない患者
- 法的無能力の患者
- 患者の意思に反する処置
- 情報に対する権利
- 守秘義務に対する権利
- 健康教育を受ける権利
- 尊厳に対する権利
- 宗教的支援に対する権利
などである。患者の権利ばかりを振り回されるのでは医療者側としては困惑するしかないが、実際のICの最大の目的は、患者に十分これから行われる医療について理解してもらい、積極的に自ら医療に参加してもらうことである。そのためには患者や家族にも十分医療行為を理解する必要と義務があるわけである。
以上基本的なところであるが、一度医師1年目に立ち返って、患者と医師の立場についてじっくり考える必要があると思う今日この頃である。