2013. 03. 01
森田より日本医科大学の先生方へのお願い
娘を雪から命がけでまもられたお父さんのニュースに悲しいながらも日本人の強さを見、一方で自分が真っ先に火のついた気球から飛び降りる運転手(の可能性)もいるということに愕然とする。そんな日々です。まだまだ寒い日が続きますが、いかがお過ごしでしょう。
さて日本医大に赴任させていただき2ヶ月間、少しずつ先生方の臨床スタイルを見させていただきました。非常に些細な点ですが、気になる点がありましたので、大変僭越ですが、お話させていただきます。上級の先生方には当たり前のことと思います。特に若手の先生方にいくつか留意していただきたい点を挙げさせていただきます。
施設を挙げてぜひ改善していただければ幸いです。
I: 神経学的所見および術前・後の客観的評価について
- 術前・後の神経症状と全身所見をしっかりとってください。現在は画像が発達し、神経学に頼って診断する機会が少なくなっています。しかし、脳神経(外科)医の基本は神経学であり、なぜ手術するのかもここにあります。調べる項目にはマスター鍵(MASTIRCAGI)という言葉ありますが、神経学所見を残さずとってください。また脳卒中、頭部外傷、下垂体腫瘍などは全身病の一環です。どんな疾患も必ず全身の所見をとり、お腹を触り、胸/心臓の音を聴いてください。
- 術前・後の神経症状や症状を、上記の記述的所見以外に客観的数値として表現できる基準で測定する努力をしてください。例えばSAHのWFNSや意識のGCSをつけないものはいないと思います。同様に脳卒中はNIHSSスコア、未破裂脳動脈瘤は術前・後MMSE(高次機能)、パーキンソンやてんかんのスコア、脊髄・脊椎は日整会スコア等各疾患について後々報告する時に客観的指標として表現できる数値を残すよう努力してください。またすべての疾患で術前・後のmodified Rankin Scale (と腫瘍ではKarnofsky score)をつけてください。
II: 穿頭方法について
ご存知の方も多いとおもいますが、杏林大学で数年前手回しの1番ドリルで慢性硬膜下血腫手術の際 脳を損傷したという事故がありました。すこし時期をあけて2例続き、いずれも30例以上の慢性硬膜下血腫の治療経験のある先生によるものでした。「手回しは危ない。」という意識をもち、ぜひ各関連施設においても、出来るだけパーフォレーターを用いた穿頭に切り替えていただきたいと思います。ディスポ製品を使うことになること。新人が手回しが使えなくなるという危惧など、様々なご意見があるかと存じますが、是非医療安全を最上位にお考えください。現在はどこの施設にも電動のドリル等はあると思います。もしパーフォレーターであかない場合にもドリルですこし周囲を削れば手回しは必要ありません。手回しドリルを使えるよりも電動ドリルを使えるほうが重要です。「手回しドリルは卒業」お願いします。
千駄木は排除の方向といたしました。
III: ディスポ製品の再使用について
上記とも関連しますが、基本はディスポ製品は再使用“禁”です。特にパーフォレーターは分解できませんので完全滅菌不可能です。ただ非常にもったいないと感じる機器も多いことは事実です。その場合でもディスポ製品の再使用にはあらかじめ基準が必要です。例えば10回まで、それまでに使えなくなったら破棄。また二重請求は絶対にしないことが重要です。SPD伝票がないので、あり得ないと思いますが、再チェックをお願いします。
IV: 手術部位マーキングについて
まだ日本医大では徹底されていないように思いますが、手術部位の術前(手術室に入室前)のマーキング(可能なら前日、緊急手術は救急部で)をお願いいたします。マッジックで太く矢印を術中術野に一部でるところにマークするのが基本です。前頭側頭開頭では耳たぶにマーク、経鼻下垂体はアプローチ側に鼻の孔を黒くしてました。両側前頭開頭などもおでこと両耳にマーク。最初は「あんまりな〜〜」と思っても患者さんが意識のあるうちにマークすることで患者さんの創部に関する意識もしっかりし、また我々の誤認に対する注意も意識してもらえます。各施設、各疾患にあった方法をご検討お願いいたします。
患者さんの記録をしっかりとること。100例に一例の事故も起こさないよう努力すること。が、我々が治療を受け持つ患者さんへの義務であると思います。是非よろしくお願いいたします。