学校法人日本医科大学
日本医科大学 脳神経外科学教室 Nippon Medical School Department of Neurological Surgery
患者さんへ

    現在、付属4病院に診療科を持ち、150余の病床と年間1,500例余の手術を行い、さらにプログラム全体で3,000例超の手術を行なっています。大学病院脳神経外科としては国内屈指の規模を誇っています。付属4病院における均質な診療を目的として、各々の疾患に対する統一した治療方針のもと、共通のプロトコルに従って治療を行っています。そのため毎週火曜日には4病院合同カンファレンスを行い、各病院における一週間の手術症例を中心にビデオを用いて活発なディスカッションを行っています。

    間脳/下垂体腫瘍
    Hypothalamic and Pituitary Tumors

    下垂体は首から上の頭蓋骨のちょうど中央にある臓器で、女性の小指の先ほどの大きさです。ここからは、ホルモンという身体のバランス・生命維持に重要な物質が分泌されます。この部位にできる主な腫瘍としては下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫などが挙げられ、その他髄膜腫、胚細胞腫、神経膠腫などが発生します。治療は、視神経や内頚動脈など周囲の解剖学的構造物との関係、腫瘍のタイプによって異なりますが、最も広く行われているのが経鼻的手術です。


     当教室は、下垂体外科の世界的権威である寺本 明名誉教授のもと、日本の下垂体手術のメッカとして特に早くから内視鏡手術に力を入れてまいりました。内視鏡下経鼻的手術は視野が広く、有効な手術法として認知され、2012年度の診療報酬改定において内視鏡下経鼻的下垂体腫瘍摘出術(K171-2)という術式が新設されました。さらに2016年度には、より高度な内視鏡下経鼻的頭蓋底腫瘍摘出術(K171-2.2)も追加されています。当施設ではこの手術を現在まで2000例以上行い、本邦でも有数の手術数を誇っております。また術後薬物治療や、ホルモン補充療法が必要な患者さんに対しても継続的な治療を行っています。今後も、これらの疾患に対する治療を発展させて参ります。

    赤矢印部分が下垂体です。脳の中心にあります。

    脳腫瘍
    Brain Tumor

    脳腫瘍と言われると癌のように恐ろしいものと思われるかもしれませんが、脳腫瘍の半分は良性腫瘍であり、のこりの悪性腫瘍も現在様々な治療が開発されています。脳腫瘍においてはナビゲーション、モニタリング、また他の治療との上手な組み合わせて治療すること(集学的治療といいます)が極めて重要です。

    手術名2015年2016年2017年2018年2019年
    脳腫瘍開頭手術103件122件117件131件122件
    脳腫瘍生検術7件11件13件10件11件
    日本医科大学付属の4病院

    当教室では山崎、樋口が神経膠腫、リンパ腫などの悪性脳腫瘍を含めた脳腫瘍一般を、森田、亦野、他頭蓋底チームが頭蓋底腫瘍、田原、亦野、築山が下垂体腫瘍、経鼻内視鏡下手術を担当しています。また定位放射線治療のうち、最新のZAP-Xは神谷町脳神経外科クリニック、サイバーナイフは日赤医療センター、春日居サイバーナイフセンター、ガンマナイフはNTT関東病院ガンマナイフセンター、築地神経科クリニックと連携して治療を進めています。お互いに協力して患者、その腫瘍に対して最良の医療を提供できるよう計画しています。

    良性脳腫瘍(聴神経腫瘍・髄膜腫など)/頭蓋底腫瘍
    Benign Brain Tumor(Acoustic Tumor, Meningioma, etc) / Skull Base Tumor

    図:鍵穴手術の骨切開と創部
    図:鍵穴手術の骨切開と創部

    良性脳腫瘍、特に髄膜腫や聴神経腫瘍という腫瘍は頭蓋の底に出来ることが多く、脳の血管や神経、また脳幹といわれる脳の中心部を巻き込んで成長します。その他脊索腫、類上皮腫、鼻・口腔の悪性腫瘍などが頭蓋底腫瘍と言われます。

    視力の低下や複視(ものがだぶって見える)、顔面の痛み、顔のしびれや麻痺、聴覚の低下、嚥下障害(のみこみづらさ)、ふらつき、歩行障害などで発症することが多い腫瘍です。治療は特殊な頭蓋底手術技術、多種のモニタリング、ナビゲーション、神経内視鏡などを用い、時にバイパス手術なども併用します。当科では症例に応じて、患者さんへの侵襲が少ない鍵穴手術も行っております。血管や脳神経を巻き込む部分では放射線治療などの技術を合わせて治療を行います。このような手術を安全に行うためには経験の多いチーム医療が必要となります。


    手術名2015年2016年2017年2018年2019年2020年2021年2022年
    脳腫瘍摘出術総計
    (千駄木)
    242件
    (157件)
    246件
    (161件)
    192件
    (134件)
    216件
    (142件)
    200件
    (126件)
    165件
    (91件)
    151件
    (97件)
    204件
    (129件)
    日本医科大学付属4病院

    当科では多くの脳腫瘍治療、頭蓋底手術を行って参りました。特に付属病院においては多くの下垂体腫瘍の手術、後頭蓋窩(小脳橋角部ともいわれる部分)の腫瘍を多く治療し、国内外に定評を得た治療をおこなってまいりました。両治療の長所を生かして、小さな開頭で行う鍵穴手術に内視鏡を積極的に併用した低侵襲(傷が小さく、身体への負担の少ない)な頭蓋底手術を広く行っています。また新規放射線治療としてアメリカから導入されたZAP-X、ガンマナイフやサイバーナイフなどとの連携医療も数多く行っています。


    特殊な疾患である神経繊維腫症2型(NF2)は治癒困難な疾患で、特に両側聴神経が侵されるため聴覚障害を生じる患者さんが多くおります。このような困難な疾患に対して治療の進歩を企画すべく脳幹インプラント、蝸牛インプラントなどの埋め込みをしてまいりました。またNF2の神経鞘腫から多く分泌される血管成長因子(VEGF)を抑える薬剤が本疾患に有用という知見を確認すべく、福島県立医科大学主導で進めているBeatNF2という二重盲検試験に参加しています。
    BeatNF2ホームページ
    “神経皮膚症候群に関する診療科横断的な診療体制の確立”研究班 NF2紹介ページ

    脳血管障害
    Cerebrovascular Disorder

    脳血管障害とは、脳動脈瘤や動静脈奇形などの出血性の頭蓋内血管病変や脳梗塞を来す脳血管の狭窄・閉塞などの虚血性脳血管障害をさします。どちらも急速に発症し脳卒中という日本で第4位の死因(要介護2位 認知症に次ぐ)となる病態を発症します。したがってこの発症後迅速に、また予防の治療を行うことは極めて重要です。ただ同時に脳卒中は全身疾患の一部ですので、全身のケアも重要です。他の科と綿密な連携を組みながら、厳密的確な手術基準を設け、繊細で高度な手術技術で治療にあたることが必要な領域です

    日本医科大学脳血管障害治療チームの特徴は、30年以上前から4病院1教室の考えのもと、対象疾患に医師を重点的に集め、specialist を養成して来た事と、学閥にこだわらず、国内外の有数の施設に留学したものが多数を占めている事です。更には、電気生理学的モニタリングや、ICG術中血管撮影、脳表動脈圧モニタリング、外視手術などを早期から導入し、より合併症の少ない安全で確実な手術に取り組で参りました、またその治療結果は医師の思い込みでなく、客観的に評価し、国内外の学会発表や論文発表によって報告して参りました。脳動脈瘤に対しては脳卒中治療ガイドライン、脳ドックガイドライン、UCAS japan等に準拠した的確な治療適応の判断と外科治療を行っています。脳動脈瘤治療は、東京都と千葉県内では有数の手術件数となっています。また撓骨動脈グラフト術は、主に、標準的な治療では治療困難な高難易度の動脈瘤(血豆状脳動脈瘤や大型内頸動脈瘤)を中心とした内頸動脈病変に対して行われる難易度の高い治療法であり、技術、人員、経験など様々な条件が必要となる手技です。我々は170例を超える本邦でも有数の経験数を誇り、多くの患者様をご紹介頂いております。より高度は技術があるからこそ、平易な手術を安全に行うことができるのです。これらの手術の長期予後は欧米の一流誌に報告しています。

    脳虚血病変に対しても頭蓋内血管閉塞性病変に対するバイパス術や、内頸動脈内膜剥離術(CEA)を厳密な実施基準のもとに、安全で確実な手術を積極的に行っています。さら日本医科大学脳神経内科・脳卒中集中治療科は国内で最大規模の脳虚血病変の診療を行なっており、脳神経外科、脳神経内科・脳卒中集中治療科、救命救急センターと密な連携を持って脳血管障害の治療にあたっています。

    もやもや病や頭蓋内閉塞性疾患に対するバイパス手術、血行再建術の経験も豊富です。『神の手』として知られる札幌禎心会病院の上山博康先生にご指導いただいたものが多く在籍しております。小児から若年成人の女性に多い本疾患ですが、微細な血行再建術と厳格な術後管理により良好な手術結果を報告させていただいております。若年女性の疾患であり、頭皮の傷、無剃毛に配慮した手術が可能です。

     また、当教室では手術修練の一環として「マイクロ選手権 5-min championship」という企画を開催しており卒後8年目以下の若手医師に人工血管(直径1mm)の切開と縫合(10-0ナイロン糸)という操作を5分間で実施してもらい客観的に評価するということを実施しております。この会を通じて顕微鏡の操作技術、手術機器の操作技術を練習し、他の客観的評価を受けることのできる体制を若手医師の手術技術向上のために行っています。

    関連論文
    Murai Y, et al .Neurosurgery. 2022 Apr 1;90(4):426-433.
    Matano F, , et al . J Neurosurg. 2016 Dec;125(6):1367-1373.
    Murai Y, et al . J Neurosurg. 1998 Apr;88(4):650-5. 

    能中 陽平
    大学院生

    日本医科大学付属4病院 脳血管障害 開頭手術

    開頭手術2018年2019年2020年2021年2022年
    脳血管障害手術総数403件382件336件255件323件
    出血症病変
    (脳動脈瘤・脳動静脈奇形)
    206件222件173件152件154件
    脳虚血性病変
    (頸動脈狭窄、バイパス術)
    87件94件93件66件94件
    脳内出血55件59件70件37件75件

    Youtube 動画
    https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=uNv7eBLDsQU

    脳血管内治療
    Neuroendovascular Therapy

    脳血管内治療は、主に足の付け根にある大腿動脈、肘にある上腕動脈、手首にある橈骨動脈などの血管からカテーテルといわれる道具を体内にいれ、その道具をもちいて、直接血管内から治療を行う方法です。対象は、血管の病気である脳動脈瘤や血管奇形、脳血管の閉塞・狭窄や血管に富む腫瘍など多岐にわたります。

    数mmの切開をしたのち、大腿動脈や上腕動脈からカテーテルを体内にいれることにより治療が可能であることから、従来の開頭手術と比較すると、手術により患者さんが受けなければならないダメージ(侵襲といいます)が小さい事が特徴とされています。局所麻酔でも手術可能なこともあり、入院日数の軽減短縮にもつながります。手術が困難な病変でも血管の中から到達すれば治療可能なこともあります。

    出典:illustAC https://www.ac-illust.com/

    主な治療方法は

    ① 塞栓術

    コイルといわれるププラチナ製の柔軟なワイヤー状の機器や、液体塞栓物質といわれる接着剤に似た素材(NBCAやOnyxなどがあります)を使い分けて、対象の血管や病変を閉塞させる方法です。おもに出血をおこした病変の止血や出血を起こしやすい病変の出血予防に行います。

    ・・・脳動脈瘤や脳動静脈奇形、硬膜動静脈瘻など

    ② 血管拡張術

    脳を栄養する主要な血管が狭窄するなどの病変に対し、血流を改善させるために、狭窄部を拡張させる方法です。バルーンと呼ばれる風船に似た道具をもちいた方法や血管拡張作用のある薬剤をもちいた方法、あるいはステントと呼ばれる金属を留置して拡張させます。

    出典:illustAC https://www.ac-illust.com/

    ・・・内頚動脈狭窄、中大脳動脈狭窄、血管攣縮など

    ③ 血栓回収療法

    脳を栄養する血管が閉塞してしまった際に、閉塞を解除する方法です。もともと血管の狭窄がある場合は、血管拡張術を行う場合もありますが、血管に血栓がつまってしまっている場合に、拡張型の金属製の道具であるステントを使用したり、カテーテルから吸引しながら血栓を回収します。

    出典:illustAC https://www.ac-illust.com/

    ・・・心房細動、機械弁置換術後、頸動脈プラークによる塞栓性脳梗塞など

    科学技術の進歩により日々治療方法が進化していることも、血管内治療の特徴です。今後新たな治療をとりいれ、よりよい治療を提供できるよう邁進してまいります。また、治療のバランスを図るために開頭手術チーム、他施設ガンマナイフセンターなどの専門家と密に連携を取り、治療方針を決定致します。常に、時代に即した最適な治療は何かを考慮し、低侵襲かつ安全な治療法を確立するべく努力をしています。

    2019年2020年2021年2022年2023年(~11月)
    破裂動脈瘤8件3件4件11件12件
    未破裂脳動脈瘤8件7件9件16件12件
    脳動静脈奇形4件3件3件5件1件
    頭蓋内硬膜動静脈瘻6件4件3件12件6件
    脊髄動静脈奇形1件0件0件1件0件
    脳血栓回収療法43件37件37件49件49件
    頸動脈ステント留置術9件8件9件6件5件
    その他塞栓術14件5件10件9件10件
    合計93件67件76件109件95件
    日本医科大学付属4病院 脳血管内手術症例

    日本脳神経血管内治療学会専門医 井手口稔(日本医科大学千葉北総病院 教育担当講師)
    日本脳神経血管内治療学会専門医 馬場栄一(日本医科大学多摩永山病院 助教)
    日本脳神経血管内治療学会専門医 築山敦(日本医科大学武蔵小杉病院 助教)
    日本脳神経血管内治療学会専門医 中江竜太(日本医科大学付属病院 救急医学科 准教授)

    2019年2020年2021年2022年2023年(~11月)
    破裂動脈瘤47件36件47件53件45件
    未破裂脳動脈瘤13件8件16件22件17件
    脳動静脈奇形6件8件4件8件4件
    頭蓋内硬膜動静脈瘻11件6件5件14件11件
    脊髄動静脈奇形1件0件0件1件0件
    脳血栓回収療法74件79件60件74件82件
    頸動脈ステント留置術12件11件10件7件7件
    その他塞栓術19件10件11件13件21件
    合計183件158件153件192件187件
    日本医科大学付属4病院 脳血管内手術症例 (救命センターおよび脳神経外科の合計件数)

    脊髄・脊椎疾患
    Spinal Disease

    頸椎症や頸椎椎間板ヘルニア、頸椎後縦靭帯骨化症などの頸椎変性疾患、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などの腰椎変性疾患は、整形外科の病気との印象が強いかもしれませんが、我々脳神経外科医は技術を駆使し、手術用顕微鏡を用いてこれらの疾患を積極的に治療しています。

    頸椎疾患は、脳と体をつなぐ脊髄神経が障害されることで、手指の細かい動きが下手になったり(巧緻運動障害)、バランスが悪く脚をつっぱるようにして歩くようになったりします(歩行障害)。加齢に伴う頸椎や椎間板の変形が原因になりやすいのですが、中には腫瘍や血管の異常などが原因になることもあります。

    腰椎疾患は、脚に行く神経が腰椎で障害されることで、歩行や立位にともない脚がしびれたり、痛くて歩けなくなったりします。よく知られた病気でもありますが、末梢神経疾患と併発していることもあり、総合的な治療が必要になることがあります。


    当院では、以前より頚椎症や頸椎椎間板ヘルニア、後縦靭帯骨化症、腰部脊柱管狭窄症などの脊椎・脊髄疾患への治療を積極的に行って参りました。特に身体への負担が少ない手術顕微鏡を用いた様々な低侵襲治療を駆使し、患者さんの状態にあったオーダーメイドの治療を行って参りました。これらの低侵襲治療は、学術的にも国内外で高い評価を得ております。脳、脊椎、末梢神経と神経に対して一貫した診断、治療を行える利点を生かし、これからも体に優しい治療を行って参ります。

    日本医科大学付属4病院 脳血管内手術症例 (救命センターおよび脳神経外科の合計件数)

    2015年2016年2017年2018年2019年2020年2021年2022年
    変性疾患81件60件63件68件40件53件29件28件
    腫瘍13件9件10件7件5件3件4件2件
    血管障害0件1件1件3件0件1件0件0件
    その他0件3件18件11件4件7件1件2件
    プログラム総数235件132件156件151件92件114件69件80件

    末梢神経障害
    Peripheral Nerve Neuropathy

    脳からでた神経は、脊椎を通って、手や足にたどりつきます。脊椎から出た後の神経は、関節や筋肉を通り抜ける際に傷むことがあり、その結果しびれや痛み、時に麻痺を起こすこともあります(末梢神経障害)。これらの疾患は患者さんの生活の質(QOL)を損なう一因でもあります。手や腕がしびれる手根管症候群(手指の痛み痺れ、夜中に痛みで目がさめる)や肘部管症候群などは比較的知られていますが、下肢の症状を呈する外側大腿皮神経障害や腓骨神経障害、足根管症候群(足裏前方の痛み痺れ、足の裏に何かが張り付いたような感じ)、更に腰痛を引き起こす殿皮神経障害など、一般になじみの少ない疾患も含めて様々なものがあります。これらは頸椎疾患や腰椎疾患と症状が似ているため、時に判断が難しいことがしばしばあります。治療にはある程度の経験が必要ですが、全国的に治療している病院が少ないのが現状です。当科では末梢神経疾患に関する豊富な治療経験を有し、低侵襲な外科治療を積極的におこなっています。


    当医局では手足のしびれや痛み、麻痺を呈した患者さんの診察や治療において、蓄積された経験のもと脊椎・脊髄疾患のみならず、末梢神経障害も含めて総合的におこなっております。特に、足根管症候群や殿皮神経障害治療に関しては、国内外に定評を得た治療をおこなってきました。今後も保存療法に加え、必要にうな手術を安全に行うためには経験の多いチーム医療が必要となります応じて、顕微鏡をもちいた局所麻酔下の低侵襲(身体への負担の少ない)手術で末梢神経障害を治療していきます。

     2015年2016年2017年2018年2019年2020年2021年2022年
    上肢(手根管、肘部管症候群など)2530172721272227
    下肢(足根管、腓骨神経障害など)3345344125593783
    その他(上・中殿皮神経障害)151324189241619
    手術数

    小児脳神経外科

    小児脳神経外科領域の疾患は、先天性疾患と後天性疾患があるため、非常に多岐に渡ります。代表的なものには、水頭症、二分脊椎、もやもや病、頭蓋縫合早期癒合症、脳腫瘍、頭部外傷などが挙げられます。それらの治療は、成人とは違った小児ならではの特徴(成長・発達や可塑性)を理解した上で、手術や周術期管理を行う必要があります。そのため、知識・経験を有する小児神経外科学会認定医が治療にあたるだけではなく、小児科・新生児科・麻酔科・産科・形成外科・泌尿器科・眼科・内分泌内科・放射線科といった多くの他科の協力が必須であり、放射線技師や看護師といった他職種も小児に慣れている必要があり、院内で多くの部署が連携しながらチーム医療で診療を行う領域です。


    当教室では、現在、2名の小児神経外科学会認定医が所属しています。数ある疾患の中でも、特に①もやもや病と②潜在性二分脊椎に関しては、確実な手術技術と治療経験があり、良好な手術成績をおさめています。

    もやもや病に対する治療としての直接血行再建術(バイパス術)は、顕微鏡下で非常に小さな血管を縫合する極めて繊細な手術技術と綿密な周術期管理が必要とされ、全国でもこの手術が可能な施設は限られています。

    当教室では歴史的に脳血管吻合のスペシャリストが多く、現在では全国大会の開催をしたり、大会優勝者を複数名輩出したりと、国内有数の高い技術力を誇っています。また、もやもや病に関する研究や学術論文も多数報告しており、当教室を代表する疾患の一つになっています。

    潜在性二分脊椎は、脊髄脂肪腫などに代表される先天性の脊髄形成不全の総称です。小さな異常の場合には乳幼児期は無症状なことが多いため、おしりの付近の皮膚の凹みやあざ、割れ目の異常など、皮膚異常を契機に発見されることが多く、将来的な脊髄係留症候群のリスクがあるとされています。当教室では武蔵小杉病院を中心に、検査から治療まで、豊富な経験をもとに診療を行っています。お子さんへの負担をなるべく減らすべく、国内でも先駆けて、従来よりもはるかに小さな傷で行える内視鏡手術を積極的に行っており、良好な成績をおさめています。

    三叉神経痛・舌咽神経痛・顔面けいれん

    三叉神経痛や舌咽神経痛、顔面けいれんなどの疾患は、脳神経血管圧迫症候群(Neurovascular compression syndrome)と呼ばれており、正常な脳神経に正常な血管がぶつかることによっておこります。

    三叉神経痛

    症状

    片側の顔面に数秒から数十秒の電撃痛が走る病気です。痛みは、歯磨きや食事、洗顔など、三叉神経の支配領域への刺激が引き金になって起こるため、患者さんは痛みのために日常生活の基本動作が辛くなります。

    ただ、顔に痛みが走る疾患は、齲歯をはじめとする歯科的疾患や耳鼻科的疾患によるものがほとんどですので、多くの顔面痛患者さんの中から、適切に三叉神経痛と診断することが重要です。

    診断方法

    三叉神経痛と診断するためには以下の3つを手掛かりにしています。

    1. 痛みの性質
       三叉神経痛であれば、歯磨きや食事、洗顔などの顔への刺激がきっかけとなり、顔に一瞬の激痛が走ります。顔に鈍い痛みが続いている場合には、三叉神経痛ではない場合が多いです。
       顔に激痛がおこる状態が数週間続いた後に、痛みが全くなくなる時期(寛解期)が数か月から数年続くこともあります。
    2. 内服薬の効果
       顔の痛みが、むし歯や副鼻腔炎などで起こっている場合には、一般的な鎮痛剤(NSAIDS)で痛みが改善しますが、三叉神経痛であれば効果がありません。三叉神経痛には、カルバマゼピンというてんかんの薬が非常に良く効きます。
       薬を飲み比べることにより、三叉神経痛と診断できます。
    3. 頭部MRI
       頭部MRIにて三叉神経が血管や腫瘍などによって圧迫されているかを調べます。
       ただ、三叉神経痛を起こす血管は三叉神経の近くにある正常血管ですので、三叉神経痛でない方でも三叉神経に血管が接触していることがあります。
       ですから、頭の検査を行うことにより、三叉神経痛と確定診断ができるわけではありません。

    三叉神経痛は、特別な検査をすることにより診断できるわけではありません。
    患者さんから痛みの状態を詳細に聞くことにより、初めて三叉神経痛と診断されます。
    中には典型的な症状を呈さず、診断に苦慮することもありますが、時間をかけて丁寧に診断していきます。

    三叉神経痛の治療

    1. 薬物療法
      カルバマゼピン(テグレトールⓇ)の飲み薬での治療を行います。
      三叉神経痛に対して、最も良く効く薬ですが、眠気や嘔気などの副作用がおこります。
      薬を飲み続けることによって、副作用も軽くなりますので、まずは少量から始め、体が慣れてきたら量を増やしていきます。
      少量でも痛みが消失すれば、少量のままとします。
      三叉神経痛は痛みが強く起こる時期と、痛みがおこらない寛解期を繰り返す方が多いので、痛みの状況によって、内服薬の量を調整します。
      薬によって、肝機能障害や皮疹などの症状がおこったら、すぐに内服を中止します。
    2. 手術
      薬の副作用によって、内服治療ができない方や、痛みが強くなり薬では抑えきれなくなった方には手術を行います。
      手術によって90%以上の方の痛みを消失させることができます。
      三叉神経痛の手術方法
      全身麻酔で耳の後ろから手術を行います。
      顕微鏡下に三叉神経を観察し、三叉神経を圧迫している血管を剥離して三叉神経から離れた場所に移動させ、テフロンという綿に糊を付けて固定します。
      三叉神経と圧迫血管の間に綿などを詰める方法(Interposition法)を行うと、術後の癒着などにより再発する危険性が高くなります。ですから、責任血管を三叉神経痛から完全に離して固定する方法(Transposition法)を行います。
      三叉神経を圧迫する血管で最も多いものは上小脳動脈です。
      この場合は、小脳テントに血管を移動させます。
      その他にも、前下小脳動脈や三叉小脳等脈、椎骨動脈や脳底動脈といった血管が三叉神経を圧迫していることがあります。
      それぞれの圧迫血管により手術の工夫を行い、安全で確実な手術を目指して行っています。

    舌咽神経痛

    症状

    三叉神経痛と同様に顔に一瞬の激痛が走る病気ですが、三叉神経が顔の表面の感覚であるのに対し、舌咽神経は喉の奥から耳の奥の感覚を感じる神経ですので痛みは喉の奥から耳の奥に感じます。
    三叉神経痛と同様に、舌咽神経の支配領域への刺激で引き起こされるため、ものを飲み込んだり、大きなあくびやくしゃみをしたりした時に激痛が走ります。

    診断方法

    三叉神経痛と同様に、痛みの状態を詳しく効くことが正しい診断を行うために大切です。
    また、カルバマゼピンで痛みが消失するかどうかも大切な情報です。
    頭のMRIで舌咽神経を圧迫する血管があるかを調べることも重要ですが、舌咽神経自体がMRIで描出しにくいこと、舌咽神経の近くに正常血管があることより、三叉神経痛以上にMRIでの診断が困難です。

    舌咽神経痛の治療

    三叉神経痛と同様の手順で行います。
    カルバマゼピンの内服で多くの方は痛みが改善しますが、薬の効果が不十分となった場合や、薬のアレルギーなどで内服が続けられなくなった場合には手術を検討します。

    顔面けいれん

    症状

    自分の意思とは関係なく、顔の半分がぴくぴく動く病気です。症状の起こりはじめは、疲れや緊張などで、瞼の下に痙攣するような違和感がおこります。症状が進行すると、頬から口元にも小刻みな痙攣がおこるようになり、さらに症状が進むと、痙攣のために目を開けることができにくくなります。

    診断方法

    三叉神経痛や舌咽神経痛と比べると、痙攣の様子を観察することによって、容易に診断ができます。片側の目の下から痙攣が始まり、数か月から数年の経過を経て頬から口の周りに痙攣が広がってきた場合には、顔面けいれんの可能性が高いです。
    顔面神経が正常血管に圧迫されて起こる疾患ですが、頭部MRIを撮影することにより圧迫血管を診断することができます。
    ごく稀ですが、脳腫瘍などが顔面神経を圧迫していることがあります。
    顔面麻痺後の顔面けいれんや、顔面神経鞘腫による顔面けいれんなどを鑑別しなければなりません。

    顔面けいれんの治療

    1. 薬物療法
      三叉神経痛と同様に、カルバマゼピン(テグレトールⓇ)やクロナゼパム(リボトリールⓇ)などの、てんかんの薬で治療を行います。ただ、三叉神経痛ほどの効果はなく、眠気が強いわりに痙攣が改善しない場合には中止します。
    2. ボトックス注射
      痙攣の強い部位にボトックスという薬の注射を行います。顔面神経からの情報が筋肉にうまく伝達されなくなることにより、痙攣が楽になります。薬の効果は概ね3か月程度ですので、効果がなくなったころに注射を繰り返して行います。
    3. 手術
      痙攣が強くなり、日常生活に支障がおこった場合には手術を行います。
      全身麻酔科に耳の後ろから手術を勧めます。顕微鏡下に顔面神経を圧迫している血管を確認して、責任血管を顔面神経から離し、綿と糊を用いて頭蓋骨に固定します。三叉神経痛と同様に、神経と血管を完全に離すTransposition法を用います。

    日本医科大学付属4病院

    手術名2015年2016年2017年2018年2019年
    脳神経減圧術39件35件35件32件38件

    顔面けいれん・三叉神経痛の手術は脳神経外科のなかでも比較的特殊な分野であり、国内でも専門的に治療を行っている施設は限られております。当院では、顔面けいれん・三叉神経痛の専門外来を行うことにより、顔面のけいれんや痛みに対しての総合的な診断と内科的治療を含めた幅広い治療を行っております。顔のぴくつきや顔面の痛みでお悩みの方、自分がこういった病気ではないかと心配な方はお気軽に受診してください。

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