学校法人日本医科大学
日本医科大学 脳神経外科学教室 Nippon Medical School Department of Neurological Surgery
研究活動について

    我々専門外科医が行う研究として、あくまでも臨床活動の中からえられたモチーフを探求することに主眼を置いております。

    間脳下垂体研究グループ

    間脳下垂体研究グループは臨床内分泌研究および、下垂体腺腫(下垂体神経内分泌腫瘍)の機能的病理研究(免疫組織化学・分子病理学)を主たる課題として活動しています。それらの詳細は以下の通りです。


    1. 下垂体部腫瘍と下垂体機能異常症に関する研究

    当教室の田原は、厚生労働省難治性疾患政策研究事業の間脳下垂体機能障害に関する調査研究班に属し、「間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン」作成に参画しております。それに関連して下垂体部腫瘍と下垂体機能異常症に関する臨床研究を精力的に行っており、特に当大学の糖尿病・内分泌代謝内科とは共同研究を行なっております(Endocr J. 2021; 68(5): 561, Endocr J. 2020; 67(2): 167.)。

    • 下垂体部腫瘍に対する臨床疫学的研究

    東京大学臨床疫学・経済学教室との共同研究でDPCデータベースを用いた臨床研究を行なっております。特に下垂体部腫瘍に対する手術法や周術期の薬物療法に対する報告を数多く行なっております(J Antimicrob Chemother. 2023; 78(12): 2909, Br J Anaesth. 2021; 127(2): e41, Acta Neurochir (Wien). 2020; 162(2): 1317.)

    • 下垂体腺腫(下垂体神経内分泌腫瘍)に対する機能的病理研究

    間脳下垂体腫瘍で最も頻度が多い下垂体腺腫は、2022年に改定されたWHO分類において神経内分泌腫瘍に変更されました。我々は内分泌病理学の第一人者で、このWHO分類のEditorもつとめた長村義之先生と共同で、下垂体腺腫(下垂体神経内分泌腫瘍)に対する機能的病理研究を免疫組織化学的手法を用いて行なっております。特に、下垂体神経内分泌腫瘍に対する転写因子の発現や機能に関する研究に重点を当てております(Brain Tumor Pathol. 2021; 38(3): 183.)。また、当大学解剖学・神経生物学教室とも共同研究を行い、下垂体神経内分泌腫瘍に対するエストロゲンレセプターの発現に関する報告をいたしました(Life Sci. 2020; 260: 118416.)。

    当教室は下垂体部腫瘍に対する、内視鏡下経鼻的手術の治療件数が最も多い施設の一つです。また、前述の通り当教室の糖尿病・内分泌代謝内科や解剖学・神経生物学教室とは、定期的にカンファレンスや共同研究活動を通じて交流を深めています。

    脳腫瘍基礎研究グループ

    日本医科大学脳神経外科の脳腫瘍研究は主に悪性神経膠腫を代表とした悪性脳腫瘍の研究をおこなっています。これまで、脳腫瘍の局所化学療法、脳腫瘍に対するモノクロナール抗体治療、免疫療法などに加え各種腫瘍成長にかかわる因子(成長因子、サイトカインなど)の解析をおこなっており、それら研究の成果は多くの学会、論文発表など学術発表しています。現在進行中の研究は50年経過しても一向に治療成績が上がらない悪性神経膠腫に対する光感受性物質を用いた診断、治療です。摘出術では対処しきれない浸潤腫瘍細胞に対し現在研究開発しているのが超音波力学療法です。悪性神経膠腫摘出術における蛍光診断に頻繁に用いられるようになったアミノレブリン酸を超音波治療に併用する音響化学療法によって、腫瘍組織選択性に優れた治療法になるものと期待されています。超音波機器メーカーとの共同研究開発、特許取得しています。癌の治療が難しい理由としてがん幹細胞の存在が指摘されています。悪性神経膠腫においてもグリオーマ幹細胞に対して音響化学療法の効果についての検証をおこなっています。

    Tumour Biol. 2016 Aug;37(8):10415-26.

    脳血管障害研究グループ

    脳動脈瘤手術やもやもや病に対する脳血行再建術におけるICG血管撮影を用いた脳血流評価によるモニタリングや手術手技の研究により手術安全性の高める改善をしております。また、治療困難な巨大脳動脈瘤を中心とした内頸動脈病変に対する撓骨動脈グラフト手術ではグラフト血管の狭窄や、捻れを防止する為の手術手技の開発、適切な吻合血管選択の為のICG血管撮影を用いた評価法等を本邦有数の多数例の経験から論文、学会の形式で報告して参りました。また、再建した脳血管の血流量、環流範囲に関してもMRI血流イメージを用いて評価しています。もやもや病に関しては複合血行再建術を行い、手術合併症が少ない良好な血流改善の結果を得ています。


    頸動脈内膜剥離術(CEA)は細い頚部の血管を広げて脳梗塞を予防する手術です。この手術は長い歴史を有し当教室の成績は周術期脳卒中発症率が約1.2%、死亡率が0.5%と良好です(▷頸動脈内膜摘出術について)。しかし頚部には大事な神経が多数存在し、障害されると声がれや嚥下障害をきたすこともあります、我々は様々なモニタリングを用い神経の保護に力を注いでおります。また創部出血(傷の腫れ)の予防や綺麗な手術創形成の工夫をしております。これらの研究はいずれも、直接的に患者様の治療の安全に寄与する手技、モニタリングであり、将来的な可能性を求めるものではなく、今現在の患者様に応用され、安全な手術に寄与しています。

    脊椎・脊髄・末梢神経研究グループ

    侵襲の高い脊椎・脊髄外科手術をより安全に、確実に、また低侵襲に行えるよう研究を重ねています。頚椎前方手術に関しては、骨盤の骨や金属を使わず患者さんの局所の骨だけで手術を行えるWilliams-Isu法の臨床研究を行い、多くの国際誌で評価されています。頚椎後方手術に関しては、高齢者でも負担の少ない手術法を駆使し、学術的にも評価を受けています。腰椎手術に関しては、金属固定をせずとも低侵襲に良好な成績が得られるよう工夫し、学術的に国内外の評価を得ております。


    末梢神経障害に関しては、一般的に治療されているとは言い難い上臀皮神経障害や足根管症候群の治療を行いながら、それらの病態解明に関する研究を行っております。上臀皮神経障害は、あまりしられていませんが、腰痛を引き起こす原因の1つであり、難治性腰痛の一部を治療できる可能性があります。また、足根管症候群は足底のしびれ、痛み、冷えを起こしますが、特に糖尿病の患者さんに多くみられます。このような疾患の研究を通して、低侵襲で確実な治療を行えるよう、努力して参ります。

    疫学研究グループ

    脳神経疾患の治療を進歩させるためには その病気の自然歴を調査するコホート研究や、治療の優劣を決定するランダム化比較試験等の大規模な臨床研究を企画・組み立て、推進することが極めて重要です。現在日本では未破裂脳動脈瘤、くも膜下出血、血管内治療、脳腫瘍の登録研究などのデータを集積しています。本研究チームでは統計解析グループとの綿密な連携をはかり重要な脳神経疾患(脳血管障害/脳腫瘍/てんかん/脊髄疾患)に関する大規模臨床研究を企画・推進してゆきたいと思います。

    ▲日本未破裂脳動脈瘤悉皆調査(UCAS Japan) 自然歴調査結果
    N Engl J Med 2012; 366:2474-2482に掲載

    当教室では様々な領域の脳神経外科診療を行ってきており、特に下垂体は日本で1、2を争う治療数を誇ります。さらに森田はこれまで長年日本における未破裂脳動脈瘤の疫学調査(UCAS Japan上記)を取りまとめて参りました。国際的な脳内出血ランダム化試験STICH II、未破裂脳動脈瘤コンセンサス研究(UIATS)などにも参加してまいりました。臨床疫学を駆使した研究チームを作って参ります。
    またNIHが主導するCommon Data Element 事業の未破裂脳動脈瘤・くも膜下出血領域の構築にも参画しました。
    下記を参照ください。
    https://www.commondataelements.ninds.nih.gov/cde-catalog

    神経内視鏡研究グループ

    神経内視鏡手術は当初脳室内の病変や、水頭症の治療などに用いられてきました。しかし最近は、下垂体腫瘍や頭蓋底腫瘍の手術で顕微鏡を補助するために、またそれに代る手術機器として認められるようになっています。しかし、神経内視鏡手術では狭い術野で繊細かつ正確な操作を行う必要があります。より安全確実な手術を行うために、この手術に特化した道具や技術が必要になります。


    我々は内視鏡下手術の技術や道具の開発を行い、手術の安全性や確実性の向上に努めています。例として、頭蓋底腫瘍摘出後の閉鎖のために硬膜縫合を行いますが、使用する深部縫合持針器と結紮のためのテクニックであるEasy slip-knot法を開発しました(Acta Neurochir. 2011; 153: 1543-5)。これらにより煩雑であった縫合操作が簡便化され、髄液漏を防ぐことができます。さらに最近では、非貫通性のチタンクリップを用いた深部縫合法も新たに発表しています(Neurol Med Chir (Tokyo), in press.)。また部長の森田教授は、内視鏡ホルダー一体型機器であるEndoArm(▷エンドアーム紹介ページ)の開発に協力しました(Neurosurgery 2004; 55: 926-31)。本機器は当院の手術で必須の道具となっています。

    MICROSURGERY ROBOTICS開発研究グループ

    脳神経外科手術の領域では、手術が高度化しさらに予後のよい、低侵襲な手術がのぞまれています。そこで1)工学やロボット技術を応用して人間の手ではできないような手術を可能にすること。2)熟練者だけができるような卓越した手術を平均的な術者でも安全に出来るようにすること。3)より小さな孔で手術ができるようにする低侵襲手術を可能にすること。などを実現するよう研究を進めています。現在12cmの深さでも1mm未満の血管を縫合するrobotや0.3mmの血管を縫合できるrobotを開発しています。今後臨床応用に進めてゆきたいと思っています。またマイクロ下の手術技術を工学的システムを用いて客観的に解析し教育にやくだてるシステムを開発しています。


    本プロジェクトは森田が2001年から東京大学工学部光石研究室と続けてきたプロジェクトです。今後も東京大学と連携して継続して行きます。研究室は東京大学医工連携研究室にあり、今後当教室の専門領域でもある内視鏡下頭蓋底手術に特化したシステムなどの開発をめざします。 詳細は下記ご参照下さい。
    森田研究ページ
    光石・原田研究室ページ

    ImPACTプロジェクト バイオニックヒューマノイドの開発に参画しました。
    ImPACT成果ページ
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